公開シンポジウム「持続可能な開発の主流化を目指して:G7サミットプロセスを視野に」開催報告

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 2016年4月16日(土)、国連大学ウ・タント国際会議場にて、公開シンポジウム「持続可能な開発の主流化を目指して:G7サミットプロセスを視野に」を開催した。当日の参加者は200名にのぼり、本年開催予定のG7サミットに際してのG7諸国のリーダーシップのあり方、とりわけ議長国としての日本の主導的役割と効果的なSDGs実施に向けた働きかけに対する関心の強さを感じられるものとなった。

■ 開会セッション
 冒頭、SDSN Japan議長である浜中裕徳理事長による主催者挨拶において、昨年9月の国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」や2015年12月のCOP21で2020年以降の温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」が採択されるなど、持続可能な開発の実現のための取組に関する極めて重要な国際合意が成し遂げられ、それらを実施することが重要な課題となっていることが強調された。
 本年日本においてG7サミットを開催されることを視野に、SDGs実施にあたってG7のリーダーシップを求め、サミットプロセスに向けて提言をまとめるためにSDSN Japanが鋭意作業を進め、3月末に開催されたワークショップにおいて参画を得られた各分野の専門家による集中的な議論を踏まえて提言をとりまとめ、本シンポジウムにおいて発表したことが説明された。提言に盛り込まれた、SDGs実施に向けた様々なアイディアや行動は、世界のSDSNネットワークのメンバーと共有すること、本年はG7サミットだけでなく、9月には中国でG20が開催されることとなっており、そうした形でSDGs実施に向けた気運が途上国も含めて、盛り上がっていくことと共に、本シンポジウムにおける議論が、国内外におけるSDGsの円滑な実施が広がる契機となることへの期待が伝えられた。

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 続いて、環境大臣政務官の鬼木誠氏より来賓挨拶があった。
 鬼木政務官からは、本年が持続可能な開発のための15年間のアジェンダ、およびその中核を成すSDGs実施をスタートする重要な一年であること、今年のG7サミットを日本が議長国として迎えることには特別な意味があること、サミットに先立って5月15、16日に富山で開催されるG7環境大臣会合が予定されており、日本にはSDGs実施を主導することに加え、G7各国をまとめる役割も期待されているとの説明があった。
 サミット開催直前の今、こうしたシンポジウムが開催されることには大きな意義があるとされ、2030アジェンダにグローバル・パートナーシップが掲げられていることを踏まえ、SDSN のようなネットワークが活動を活性化させることで関係者への波及効果が大きいと考えられること、また環境省が今後、SDGsにかかわる関係者を後押しし、先駆的な取組を共有し、認め合う場としてステークホルダーズ・ミーティングの開催を計画していること、さらに官民一体となってSDGsの実施に積極的に取り組んでいくとの方針を明らかにした。

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■ 基調講演「SDGsの主流化に向けたSDSN Japan からの提言」
 国連大学上級副学長/東京大学教授/SDSN Japan副議長の武内教授より、G7サミットプロセスに向けたSDSN Japanからの提言に焦点を当てた基調報告を行った。はじめに、1972年のストックホルムにおける国連人間環境会議から2015年の2030年アジェンダの採択に至るまでの持続可能な開発をめぐる国際動向について述べた。途上国を主な対象とし、最終的には多くの目標が十分に達成されなかったとされるMDGsに対し、SDGsには途上国だけでなく先進国をも対象としている点、2030年までの達成期限、目標とターゲット、指標という3つの構造といった特徴があり、法的な拘束力はないものの各国・各地域で達成を目指すことが強く奨励されていることを説明した。また、SDGsは様々なステークホルダーが参加し、開かれた議論を行うという過程で決められたため、その結果である17の目標、169にものぼるターゲットは批判もされているが、オープンで民主主義的な議論が可能になったことの対価として受け止め、今後これらをどのように使っていくかというところに重点を置くべきと述べた。
 またSDSN Japanの設立について、様々なステークホルダーの参加と協働をもとにしたSDGs達成に向けた戦略や計画の検討や、他国のネットワークと連携による途上国の能力開発の支援が目的とされていることを説明し、その一環として今回の「持続可能な開発目標(SDGs)の主流化に向けたSDSN Japanからの提言」について報告した。

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■ ダイアローグ・セッション
 続いて、予定されていたサックス教授によるビデオ講演に代わり、今回の提言のとりまとめに尽力されたSDSN Japan理事会メンバーによる、提言の内容について個別の分野から掘り下げた解説を行う座談会形式のセッションが行われた。
 登壇したのは、蟹江憲史教授(慶應義塾大学教授/SDSN Japan理事)、浜中裕徳氏(IGES理事長/SDSN Japan議長)、末吉竹二郎氏(自然エネルギー財団代表理事・副理事長/国連環境計画・金融イニシアティブ特別顧問/SDSN Japan理事)、武内和彦教授(国連大学上級副学長/東京大学教授/SDSN Japan副議長)、鈴木佑司教授(ユネスコ協会連盟 副理事長/SDSN Japan理事)。

 蟹江教授は、多様な分野に関わるSDGsの達成に向け、統合的に政策を扱うための司令塔が必要であることを重要なポイントとして挙げた。トップダウンで物事を決めるという意味の司令塔ではなく、サッカーにおける司令塔のように、いろいろなステークホルダーがいる中で適宜一番大事なところにパスを送れるような存在が重要であると述べ、日本ではSDGsの策定過程でリーダーシップをとった外務省が中心となり、内閣官房内に司令塔を作っていくための動きがあると説明した。他国の例としては、ドイツにおいて以前からあった省庁の機能をSDGs用に移行することで、司令塔としての役割を持つ省庁が既にできていると説明し、そうした先進的な国の動きも参考に、G7サミットをひとつのきっかけとして日本も積極的に動いていく必要があると述べた。

 浜中氏は、気候変動の分野では2℃目標を定めたパリ協定がきわめて重要であり、化石燃料に依存する経済や社会のあり方からの根本的な転換を意識した企業や都市のリーダー、市民団体、研究機関が既に目覚ましい行動を始めており、政府は今後も引き続き重要な役割を果たしていくと考えられるが、政府以外の主体の果たす役割も非常に大きいと考えられることを述べた。今回のパリ協定では先進国も途上国もそれぞれ自国で決めた目標(例えば日本の場合は2030年目標)を提出し、5年ごとに提出した目標の実施状況を確認しながら、さらにその目標を強化していくシステムであり、2030年目標や現在政府が検討している2050年目標は最終ゴールではなく、あくまで通過点であってさらにその先を目指さなくてはならないと説明した。そのためには、SDGsの包括的な・統合的な性格への十分な理解と取り組み、企業による単に社会貢献という形だけでなくビジネスの本流に新しい可能性を生み出せるような真剣な行動、そして技術の革新だけではなく最終的に到達すべき姿を描き、社会システム、経済システムが変わるような対策の重要性を指摘した。

 末吉氏は、民間投資の方向性についての世界の動きに関して、パリ協定とSDGsが合意されたことにより、2015年が戦後最も重要な年と言われたことについて言及し、今後21世紀の地球社会の方向性を決めていくものであり、金融の世界におけるグリーン化、脱炭素株を金融で支えるという動きについて紹介した。現在、CO2削減目標といった企業の姿勢やそれをバックアップする投資家の判断が問われるなど、金融の世界が何をできるか模索されていると言及し、世界の機関投資家の間で(クリーンエネルギーへの)1兆ドルの投資を増やすという議論が始まっていること、SDGsを達成する可能性がある企業を示すインデックスが発表されたこと、銀行監督の中、特に資産の査定の中に気候変動リスクを入れようという議論が始まっていること、そして企業や金融機関の気候変動リスクに関する情報開示をさせるための仕組みづくりが始まっていること、現在は気候変動リスクが組み込まれず、財務データでしか作られていないアメリカの企業会計原則のサスティナビリティという面からの見直しが進められていることを説明した。さらに、こうした背景として金融資産(先日のLSEの発表によると24兆ドル)が気候変動リスクにさらされていることが明らかにされており、2℃シナリオの実現が最終的には企業や社会の基盤を守ることになるとされ、金融を通じた気候変動リスクへの取組の重要性を説明した。

 武内教授は、生物多様性の捉え方について、SDGsの文脈においては生物多様性こそが重要な資産であると述べ、自然資本をいかに保全し、有効に活用していくのかといった観点を取り入れて議論を進めていく必要性、それを支える担い手として、従来の農林水産業の従事者だけでなく、民間企業やNGOといった様々なステークホルダーが資本の管理に参加していくことの重要性について言及した。これに関して、SDGの中に挙げられているパートナーシップをさらに発展させることによって、より具体的に展開できると説明した。また、自然資本を損なわないことを前提とした包括的な成長が必要であり、自然資本や人的資本に注目しながら、生物多様性・生態系を軸にした新しい豊かさの追求をすべきと述べた。日本においては地方創生が重要な課題であるが、いかに自然資本を活かして農林水産業という産業の基盤の上に観光やエコツーリズムのような新しい産業を付加し、いろいろな人が支える形で地域が持続的に維持されることを目指していくことが重要と述べた。

 鈴木教授は、人間の問題を表す際に考えなくてはならないこととして、2つの問題を挙げた。一つは、世代間の価値観の違いをどのように超えて協力ができるかという点であり、もう一つは国境を越えてどのように共通の価値を得ていったらいいのかという点である。そのためには、SDGsを教育課程に組み入れ、教育の中で実践していく課題として埋め込むことが必要であり、そうした取組が日本では進んでいる反面、その他のアジア諸国では依然として経済成長を妨げるものとして抵抗が大きいこと、この問題を解決するためには将来世代に向け長期的な視野に立って持続可能な人づくりが必要であると説明した。元来、教育の分野においては援助や協力が最も難しいと言われており、国境を越えてSDGs実現に向けて進んでいくことは決して容易ではないと述べた上で、教育にも焦点を当てている今回の提言は、G7諸国にとってもG20諸国にとっても非常に参考になる、優れた提案になると述べた。

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■ パネル・ディスカッション
 第二部のパネル・ディスカッションでは、モデレーターに国谷裕子氏を迎え、パネリストとして蟹江教授(慶應義塾大学教授)、亀山康子氏(国立環境研究所持続可能社会システム研究室長)、有馬利男氏(グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワーク代表理事/SDSN Japan理事)、黒田かをり氏(CSOネットワーク事務局長・理事/SDSN Japan理事)が登壇した。

 冒頭で以下の二つのビデオを鑑賞し、ディスカッションに移行した。
1. ‘We The People’ for The Global Goals
2.「ようこそ人新世へ‏」

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 亀山氏は、昨年のCOP21で起きたことはまさにSDGsを具現化したものと捉えることができ、18年前に京都議定書が採択された時代からは大きな変革があったと述べた。かつては気候変動がひとつの独立した問題として捉えられていたことに対し、今回のパリにおいては温室効果ガスの削減がビジネスでもあり、投資でもあり、まちづくりでもあり、ライフスタイルの問題としても捉えた議論が進められ、温暖化目標も先進国だけでなく途上国も目標を設定して取り組むことが当たり前の時代になってきた点を強調した。日本国内では、残念ながら未だ一部からは温暖化対策にはコストがかかるなどという意見も聞かれているが、今後日本が取り残されるようなことになってしまうという危機感もあり、現在海外で起きている動きをきちんと国内に伝えていくことに研究者にも責任があると考えていると述べた。
 日本がSDGs実施を進めていく上では『抱き合わせ』のアプローチがなぜ有効なのかという国谷氏からの質問に対し、日本だけでなく海外を見ても単に温暖化対策のみを目的に導入される政策は少なく、他の政策目標にプラスの影響があるものが合意を得られやすいと述べた。日本においては、将来世代にどのような国を残したいのかを前提に、財政赤字を解消するような温暖化解決に投資し、新しい産業を活性化させていくなど、複合的なアプローチを展開しなくては根本的な解決にはならないと述べ、「日本国内でSDGsを達成する」というのではわかりづらく伝えづらいため、伝え方を考慮していく必要性を指摘した。また、こういった会議の場に足を運ばないような、全く関心を持たない層にこそ話しかけていき、同時にそうした人々がいつの間にか行動を取ってしまうような社会・システムづくりが必要であると述べた。

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 有馬氏は、グローバルコンパクト・ネットワーク・ジャパンには日本企業が二百数十社加盟しているが、あくまで可能な範囲でCSRを展開しているに過ぎない日本企業が未だに多く、場合によっては一種のパフォーマンス的なものに留まっていることもあること、企業のCSR推進部門の担当者は孤独感を持っている人が多いこと、けれども日本においてもこうした流れが変わる節目に今、差し掛かっているのではないかと感じていると述べた。
 常に激しい競争に晒されている企業の行動のあり方への変革はどのようにもたらされるのかという国谷氏の質問に対しては、内側からと外側からの力があってはじめて変化していくと思われると答えた。外側の変化として政府の側から企業に対する働きかけがずいぶん変化してきたこと、社会に対するコミットメントや長期視点での経営を促す動きがあること、また企業に対する投資家にも同様な動きがあることを説明した。同時に企業の側も変わりつつあり、例えば財務情報と非財務情報の両方を入れ込んだ統合報告をつくる企業が2015年時点には前年比で40%ほど増えた約250社あるなど、内側からの働きかけを示し始めたと見て取れることを述べた。
 また、企業が行動を起こし、SDGsの課題に取り組むためには、インベスター・リレーションズ(IR)の場で収益の問題やどのような経路を辿って目的に達するかといった点について説明をしなくてはならず、経営計画として落とし込むための方法論や論理性をほとんどの企業が持ち合わせていない状況であり、一方で実際に行動を起こしている企業の戦略としてユニリーバやトヨタ自動車の『Sustainable Challenge 2050』について言及した。

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 黒田氏は、我々の世界を変革するとされている2030アジェンダおよびSDGsは、日本を含む先進国も途上国も全てが関わる包括的なものであるが、地域の人々にはわかりづらいものであり、自分たちの課題にどのように繋がっているのか、理解が十分ではなく、今後実際に実施していく上ではいろいろなものが足りていない状況であると説明した。実現に向けて、社会全体がリスクも含めて共有し、自分の立場で何ができるのかを把握する必要があると述べた。
SDGs実施のアプローチに関しては、黒田氏は地域においてはSDGsの17の目標、169のターゲット、230の指標といった話が何の意味も持たないこと、『地産地消』や循環型社会を目指すなどといったいろいろな取組がそれぞれの地域には既に存在しており、そこを起点としてSDGsに繋げていくことが必要と思われると説明した。地域における施策や取組に関しては、様々なレベルで様々な立場にある人々が関わる形で行われているにもかかわらず、それらがあまり繋がっていないと指摘し、今後SDGsをきっかけに有機的な関係性を構築していくことが期待されると述べた。

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 オープンな議論を経て、気候変動問題や貧困の問題などに対しSDGsはきわめて野心的に設定された目標であるが、これだけの目標を理念で解決することはできるのかという国谷氏からの質問に対し、蟹江教授は17の目標だけ見ると確かにかなり理念に近いものであるが、よく見てみると理念であると同時に必要とされる具体的な行動の目安を示してもいることを指摘した。グローバルな文脈では大きな話をしているが、ローカルに、あるいは実際の生活のレベルにどのように落とし込んでいくかが、今後重要な課題になってくると考えられると述べた。オープンワーキンググループにおける議論では、目標というのは『冷蔵庫に貼り付けられるようなもの』でなくてはならないとされていて、常に意識されるものが積り積もってグローバルに達成される目標となると考えられた。それを踏まえると、SDGsは理念というよりは具体的な行動を教えてくれるものとして捉えるべきと考えられる。ローカルレベルで既に展開している様々な取組をそこで留めておかず、よりグローバルなレベルとのつながりを重視し、長期的に物事を見るためのツールとしてSDGsは活用できる。現在の社会において、人々がつながりを作るためには何が壁となっているのかという国谷氏の問いに対しては、つながりを見えにくくしている既存の世の中の仕組み、縦割りの構造などを突き崩すのは非常に難しいことであると述べ、だからこそ、これまでの延長線上の試みではなく、目標に向かう変革が必要であると強調した。また、よいことをやっている会社や自治体を後押ししていくのが公共部門の役割であると言及した。

 パネル・ディスカッションの最後には、国谷氏よりパネリスト全員に「SDGsを考えることは、日本にとってどのようなことを意味するのか」という問い掛けがなされた。有馬氏は、企業が収益をあげることによってだけ社会に対する責任を果たしていた時代は終わったとし、投資家が長期にわたる確実なものに投資を行うためにも企業の力を強めることが必要とされ、そうすることで社会も少しずつ変わっていくという考えを示した。黒田氏は、「どのような社会を目指していくべきか」という問題について本当の主役と考えられるミレニアム世代の若者たちとの世代を超えた共有・協働が必要であると述べた。亀山氏は、社会を大きな船と例え、大きな船は舵が切られても船自体の慣性で舵が切られた方向に即向きを変えられないのと同様に、2030アジェンダやパリ協定の策定などにより舵が大きく切られたものの、社会全体はすぐには変革していかない中にあって、我々は船の動きに注目するのではなく、切られた舵そのものの動きを注視して行動していくべきであることを強調した。蟹江先生は、SDGsは個人、企業、国連の生き方であるとし、それぞれが自分の持っている視点・角度から「持続的に生きる上でどうするか」を見ていると述べた。国谷氏は、一つの社会問題が解決すれば別の課題が出てくる現代社会において、SDGsのような包括的な考え方で経済の問題も社会の問題も環境の問題も、統合的に実現できれば、大変素晴らしく思うと、ディスカッションを総括した。

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■ 閉会の挨拶
 SDSN Japan事務局長の竹本和彦所長(UNU-IAS所長)は、本シンポジウムにおいて行われた議論が大変活発で有意義なものであったとし、得られた成果を何らかの形でSDSN Japanとして発表していきたい旨述べるとともに、参加者全員に対し、熱心な参加に謝意を表し、閉会した。

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